2012年08月02日

【超短編小説】熱帯夜

眠れない夜。
じっとしていられなかった僕は、あてもなく散歩に出かけた。
見上げれば、広大な黒に無限の粒子。
あの光は、何千年何万年昔の輝きなのだと聞いて、未だに信じられないでいる。
天然のプラネタリウムを、今は僕だけ、ひとり占め。

静かな夜。
人も車も、明かりさえもまばらな、深い夜。
街灯だけが当たり前のように道を照らしている。
電線は蜘蛛の巣のように張り巡らされていて。
なるほどネットワークとはこういうことかと下らないことに納得する。

ひとりの夜。
こんな時間に外出しても、誰も心配などしない。
僕はひとりだ。
どこまでもひとりだ。
別に寂しくはない。
寂しいから、ではない。
必要だから、だ。

最後の夜。
無茶しても勝手をしても、無責任でいられた。
そんな、ひとり身の自由を満喫する、最後の夜。
後悔なんてしていないよ。
・・・ちょっとしか。

夜が明ければ、これまでと何もかもが変わるのかな。
隣にはきっと、君がいて。
それはそれは、幸せなんだろうな。
だけど、どうしてもつきまとう小さな不安。
こんな僕で、本当にいいのかな。
僕は幸せになれるのかな。
君を幸せにできるのかな。

暑い夜。
もうじき、太陽はいつも通りに昇る。
孤独な散歩は、これでおしまい。
これからは君と、二人で歩く。
誰もいない住宅街の真ん中で、僕はぐっと背伸びした。
posted by いずみ at 16:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【超短編小説】影法師

君の影法師に、僕の影法師を重ねて。
そっと、手を繋ぐ真似をする。
痛い夏の日差しに――在りし日の君を思い出しながら。

ある日、この街に爆弾が落ちた。

一瞬の光に、目に映る全てが吹き飛んだ。
跡形もなく――否、あまりの眩しさに、みんなの影法師だけを残して。
街は。
僕の住む街は。
その姿を大きく変えた。

世界はここを死の街と呼んだ。
瓦礫と灰塵だらけの土地を、街と呼んだ。
あちこちに残る人々の影法師に、不思議なコミュニティを見出して。

運よく生き延びた僕は。
何もかもを失って。
それでも、何故か、生きていた。
たったひとりで。

意味もなく。意義もなく。志もなく。
目的もなく。執着もなく。憎悪もなく。

ただ生きていた。
――君のいない世界で。

助けは来ない。
爆弾が含む毒に汚染されたこの街は、あらゆる生命を拒んでいた。
爆心地にいた、それでいて運よく生き延びた僕らを除いて。
故に死の街。
逆に、生き延びた住人が外の世界へ出ることも禁じられた。
毒を拡散させてはならない、という理由から。
もっとも、僕はここから逃げ出すつもりなどなかったのだけど。

この街には、君との思い出に溢れている。
瓦礫と化したとはいえ、あの頃の面影がまるでなくなったわけでもない。
僕は毎日、それらの思い出を集めて回る。
そして日が沈む前にここに来て。
君の影法師の隣で、一日を終える。
多分、死ぬまで。

影法師を重ねて、そっと、手を繋ぐ真似をする。
今日も一日が終わるよ。
おやすみなさい。
また明日。
ラベル:小説
posted by いずみ at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月30日

「こうして彼は屋上を燃やすことにした」読了。



「こうして彼は屋上を燃やすことにした」読了。
まぁまぁ、面白かった・・・かな?
1冊完結。まさか続きは出ないだろう、という内容。

全体を通して、何やら若い印象。
文章が若干稚拙、という意味と、瑞々しい感性で描かれている、という意味。
若いなぁ!
どうやらこれがデビュー作らしいので、その若さは武器だと思います。

お話のベースは、オズの魔法使いになぞらえたドロシー・ブリキ・ライオン・カカシの
4人の高校生が、それぞれが抱える問題に取り組んでいくというもの。
各人物にスポットを当てた短編4本+αで構成されいます。
この辺は実に教科書通り。
ただ、ブリキ・ライオン・カカシの話がとにかく暗い。
じめっと暗い。
そこが気に入るか否かで、評価が大きく分かれそう。
僕は、あんまり好きじゃなかったな!
自作の暗さとはちょっと違う暗さなんだよー。
この微妙なところは、他人には理解できないかもしれない。
全体的に、ドロシーに色々救われてます。色々。

そんなわけで、本作を他人に薦められるかというと、微妙。
どっちかというとオススメできない。
文体そのものにはあまり癖もなく読みやすいので、じめっとした暗さが好きならいいかも。
この作者の次回作ってどうなるんだろう。予測がつかねえ。
ラベル:ラノベ 書評
posted by いずみ at 13:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評/小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする