2012年06月12日

【超短編小説】責任

責任を取る、というのはどういうことなんだろう。
そんなことを考える。
僕には、考えることしかできないから。

責任を取る。
責任を持つ。

言葉の印象から最初に浮かぶのは、結婚、だろうか。
責任を取って結婚するとか、結婚は男の責任だとか。
よくそんな言い回しを聞く。
ここではつまり、相手の期待に沿った行動を取るということか。
例えば20歳から10年付き合った彼女がいて、今更結婚はしないと言い出せばどうだ。
彼女からすれば、私の10年を返して、と言いたくもなるだろう。
女性は特に婚期というものに敏感だ。
一般に適齢期といわれる20代を共にした彼氏が結婚しないと言えば。
それはもう、一大事と表現せざるを得ない。かも、しれない。
だからそんな裏切りはしない。
そういう意味で、責任を取る。

損害の補填、という意味合いもあるだろう。
例えば、お店の商品を壊してしまった。
よって、それを購入することでお店の損害を補填する。
保障する。賠償する。弁償する。
そういう意味で、責任を取る。
仕事の責任なんてものも大雑把に言えばこれに含まれるだろう。

プラスのことを、プラスであるように約束する。
マイナスのことを、ゼロないしはプラスになるよう約束する。
そういったことが、責任を取るということなんだろうと思う。

さて。

「じゃあこの場合、僕はどうしたら責任を取ったことになるんだろうね?」

答えない。
目の前の彼は、微動だにしない。
腹部には深々と鋭いナイフが刺さったままで。
血溜まりは乾く気配もない。

喋らなくなった。
動かなくなった。
――死んでしまった。

その原因は、多分僕にあるのだろう。
だったら、僕はどうしたら責任を取ったと言えるんだろうか。

もう少し遡ろう。
では、何故僕は彼を殺したのか?
恨みがあったからだ。
僕は酷く酷く傷ついて、生きているのも馬鹿らしくなって、死のうとして。
待てよ、と思って。
復讐をしたのだ。
つまり――僕の傷の責任を、彼に取らせたのだ。

僕は傷ついた。
悲しみ、嘆き、怒った。
その傷は決して癒えることはない。
このマイナスはどう補ってもゼロには戻らない。
ならばせめてゼロに近いマイナスにしよう。
そう思った結果が、この復讐劇なのだ。
彼は、彼の行いの償いをした――否、僕がさせたのだ。

「ああ、これで差し引きゼロってことにすればいいのか」

彼が僕を傷つけた。
僕が彼を殺した。
僕の傷は、それでも決して癒えないけれども。
それは――いわゆるアレだ。

「釣りはいらねえ、取っときな」

これにて決着。
めでたし、めでたし。
タグ:小説
posted by いずみ at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月11日

【超短編小説】自己責任

何だかもう、生きることに疲れてしまった。
死にたいと願うようになってしまった。

体を壊した。
きっかけは勿論仕事だった。
過度の負荷に、体が耐え切れなかったのだろう。
上司にそのように相談すると、
「体調管理は自己責任だろう」
と切って捨てられた。
言葉のアヤ、というわけでもなくそのまま本当に解雇された。
正直、信じられなかった。
働け働け、と散々怒鳴りつけられて。
日常生活もままならない薄給でこき使われて。
挙句、体を壊したらそれは自己責任だという。
これまで、何度も死にたいくらいの目にあった。
仕事が辛い。上手くいかない。
それでも次々と仕事は降ってくる。休む暇などなく。
もがいてもがいて、もがき抜いた。
それでも尚、努力が足りないと言われ続けた。
僕はその言葉に突き動かされるように、働き続けた。
その結果が、これだ。

上司は自己責任だという。
では、上長たる責任はないのだろうか。
部下に適切以上の仕事を割り振ったり、メンテナンスを怠った責任は。
例えば、仕事上での成功はイコール会社の業績となり、上司の手柄となる。
しかし、失敗はどうだ。
上司は部下に責任を押し付け、自分は逃げるばかりだった。
そんな様子を、僕はもう何度も見てきた。
これが、会社の仕組みなのだと思った。
新陳代謝という名目で、罪もない後輩たちがどんどん首を切られていく。
僕は何とかその災厄から逃れるのに必死だった。
そして常套句、
「今の若者は使えない」
――使う側の才覚の問題だろう。
切れないナイフを切れるようにする、もしくは切れなくても使えるよう工夫する。
それが管理者の仕事だ。
その仕事に対する責任を全うしているか?
しているわけがない。

だから、僕はもう疲れてしまった。

体を壊したのはいい機会だった。
会社を離れ、過去を振り返ると、沸々と怒りが湧いてくる。
僕は体を壊し、心も病んだ。
なのに会社は、すぐに交代人員を入れてそれで終わりだ。
今日もお金儲けに勤しんでいることだろう。
割に合わない。
全然、割に合わない。

死にたい、という思いと相俟って、僕の思考は飛躍する。
どうせ死ぬのなら、一矢報いてやろう。
自己責任と、会社は言った。
ならばその言葉を、そっくりそのまま返してやろう。
僕のような人間を生んだのはダレか。
責任の所在はどこなのか。

朝早く、駅の改札口前で見慣れた顔を見つける。
背後から忍び寄って、一突き。二突き。
拙い医学知識で、致命傷となりそうな部分を徹底的に破壊する。
何が起こったのか分からない、という顔だった。
僕を貶し、怒鳴り、こき使ったあの忌々しい顔とは比べ様もない。

「自己責任、なんでしょう?」

僕は低くそう言って、笑った。

彼は社内でもそこそこのポジションにいた。
若手のような、使い捨ての駒には勤まるまい。
その影響は、決して小さくないはずだ。
しかし彼は、死ぬべくして死んだ。
たとえ僕がやらなくても、いつか誰かが同じようなことをやっただろう。
何と言ったかな。

――そう、リスクマネジメント。

こうなることは、僕みたいな若造でも、分かりきったことだったのだ。
何も分からない若者を洗脳し、自分たちに都合よく働かせて。
不具合があれば、自己責任と一蹴する。
そんなことを繰り返せば、奴隷だって王を討つ。
簡単な話なのだ。
そんな簡単なことを予見できなかった、それは会社の――

自己責任でしょう?
タグ:小説
posted by いずみ at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月07日

【超短編小説】傍観者

本校にいじめは存在しません。
それが、教師陣のスタンスだった。
バカじゃねえの、と思った。
そんなわけねえじゃん、と。
現に今――僕の目の前に、いじめは存在している。

所詮小学生のいじめだ、大したことはない。
きっと、大人はそう言うだろう。
僕も、まぁそんなに大したことじゃないかなとは思っている。
かと言って止めはしないし、まして推奨なんかしないけれど。

曲輪円環くるわ まどか――いじめられている女子の名前だ。

一見普通の、どこにでもいるような女子。
ただ、ちょっとぼんやりしていて何を考えているのか分からないところがある。
最初は確か、事故で彼女の体操服に牛乳をこぼしてしまったことだった。
お調子者の男子が給食の時間にふざけていて、うっかりやってしまった。
彼女はそれを見ていたはずなのに、昼休み明けの体育の時間、その体操服をそのまま着た。
交換どころか洗いもせず、そのまま。
当然ちょっとした騒ぎになった。
以来、彼女への遊び半分の攻撃は徐々にエスカレートしていった。
上履きを隠す。筆箱に虫の死骸を入れる。頭からバケツの汚水をかける。
僕はそれに加担することなく、ただぼんやりと眺めていたが、どこからいじめだったのだろう?
明確なラインがちょっとよく分からない。
ただ、今現在は少なくともいじめと断言していいだろう。

「ちょっと男子、やめなさいよー」
今日も今日とて、椅子に画鋲を仕掛けるという馬鹿馬鹿しい行為に勤しむ男子に女子が言う。
やめなさいよ、と言うだけで、結局彼女らもケラケラ笑っているのだ。
僕は笑わない。あくまでも、見ているだけだ。特に感想もない。
そうと知らない曲輪が、席に戻る。
椅子を引き、何も確認せずにそこに座る。
ぎゃっ、と声を上げて彼女は飛び上がった。
ああ、痛そうだ。飛び上がるのも無理はない。
そのリアクションに、教室中がどっと笑いに包まれた。
何という不健全な笑いだろう。
何度も言うが、僕は笑わない。そんな趣味はない。

いつもなら、それで終わり。
何事もなく次の授業が始まる。
だけど今日は、いつも通りじゃなかった。

「うああああ!」
曲輪は叫び声を上げ、その椅子を持ち上げた。
「誰だ! 誰がやった!」
とても彼女とは思えない怒号に、一転、教室が静まり返る。
「・・・もういい」
曲輪はそう言って。
誰もが、ほっと胸を撫で下ろした瞬間。
「全員、殺す」
と、宣言した。
ブン、と手近な男子に向かって椅子を振り下ろす。
妙に水っぽい音がして、男子は床に倒れた。床に赤い血がじわりと広がる。

そこからは、阿鼻叫喚、地獄絵図というやつだ。

曲輪は次々とその椅子で復讐を果たしていった。
そう、これは復讐だ――。
僕はぼんやり、そんなことを思っていた。

「お前は何故逃げない?」
気がついた時には、教室内にいる無事な生徒は曲輪と僕だけになっていた。
それ以外は、死んだように動かないか、もしくは外へ逃げ出した。
いずれ騒ぎを聞きつけた教師がやってくるだろう。
「僕は」
彼女の胡乱な目を見つめて、言う。
「何もしていないから。復讐されるようなことを、してないから」
「ああ――」
そこで彼女は、キヒヒ、と笑った。
「お前はいつも、見ているだけだったなぁ」

――ぐしゃ。

頭部に酷い衝撃。
ああ、やられた。
そう思った時には、もう目の前は真っ暗だった。
「ただ見ているだけだって、同罪に決まってるだろう」
そうか、なるほど。
それもまぁ、そうかもしれない。
僕は、薄れていく意識でそんなことを考えていた。
タグ:小説
posted by いずみ at 18:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。