ぼそりとひとり、呟いた。
ひとり、のつもりだった。
「何が仕方ないの?」
「ああ、君か」
何もない暗闇の世界に、もうひとり。
彼女はいわば、もうひとりのぼくだった。
ぼくはひとりではなかった。
「――いやね。ちょっと、世界を滅ぼそうかと思って」
「あら。もう飽きたの?」
『もう』。
彼女にとっては、そんな感覚だろう。
まったく、彼女にはかなわない。
「まだたったの――46億年じゃない」
「そうだね、君の137億年には及びもしない」
「そう思うなら、どうして?」
「うん、まぁ、何だろう。可哀想になっちゃって、さ」
「可哀想?」
「そう、可哀想。
精一杯生きることも叶わず、かといって死ぬこともできず。
迷惑をかけるのも嫌で頼るのも申し訳なくて縋るのも忍びなくて。
小さくてか弱くて優しくて、ぞんざいで残酷で無慈悲で。
――人間というのは、どうしてこうも可哀想なのかね」
「・・・あなたは、感情移入しすぎなのよ」
「そうかもしれないね」
「でもまぁ、あなたが決めることだから。あたしは何も言わないわ」
「うん。ありがとう」
そうして彼女は、音もなく去っていった。
あれで彼女は結構忙しいのだ。
ぼくは小さく溜息を吐く。
何だか酷いことをしちゃったかな。
自分で作った箱庭に、自分で作ったお人形。
みんなが楽しくなればいいと思って、作ったのだけれど。
世界はあまりに、悲哀で溢れている。
やがてぼくの溜息は、白く濁り。
薄膜のように、星を覆った。
溜息はやがて雨となり、世界に等しく降りしきる。
あとは、雨の管理人をばらまいて、完了。
ほんの数年で、多分世界は滅ぶろう。
作ってしまって、ごめんなさい。
救えなくて、ごめんなさい。
何もしてあげられなくて、ごめんなさい。
世界は、これで終わりです。
さようなら。
悲哀も、これで終わりです。
おめでとう。
ぼくは少し、休みます。
何だか凄く疲れてしまって。
それじゃあバイバイ。
おやすみなさい。