2012年08月17日

【連作/夏の雨】3.ゲームオーバー

「仕方ないなぁ」

ぼそりとひとり、呟いた。
ひとり、のつもりだった。

「何が仕方ないの?」
「ああ、君か」

何もない暗闇の世界に、もうひとり。
彼女はいわば、もうひとりのぼくだった。
ぼくはひとりではなかった。

「――いやね。ちょっと、世界を滅ぼそうかと思って」
「あら。もう飽きたの?」

『もう』。
彼女にとっては、そんな感覚だろう。
まったく、彼女にはかなわない。

「まだたったの――46億年じゃない」
「そうだね、君の137億年には及びもしない」
「そう思うなら、どうして?」
「うん、まぁ、何だろう。可哀想になっちゃって、さ」
「可哀想?」
「そう、可哀想。
 精一杯生きることも叶わず、かといって死ぬこともできず。
 迷惑をかけるのも嫌で頼るのも申し訳なくて縋るのも忍びなくて。
 小さくてか弱くて優しくて、ぞんざいで残酷で無慈悲で。
 ――人間というのは、どうしてこうも可哀想なのかね」
「・・・あなたは、感情移入しすぎなのよ」
「そうかもしれないね」
「でもまぁ、あなたが決めることだから。あたしは何も言わないわ」
「うん。ありがとう」

そうして彼女は、音もなく去っていった。
あれで彼女は結構忙しいのだ。

ぼくは小さく溜息を吐く。
何だか酷いことをしちゃったかな。
自分で作った箱庭に、自分で作ったお人形。
みんなが楽しくなればいいと思って、作ったのだけれど。
世界はあまりに、悲哀で溢れている。

やがてぼくの溜息は、白く濁り。
薄膜のように、星を覆った。
溜息はやがて雨となり、世界に等しく降りしきる。
あとは、雨の管理人をばらまいて、完了。
ほんの数年で、多分世界は滅ぶろう。

作ってしまって、ごめんなさい。
救えなくて、ごめんなさい。
何もしてあげられなくて、ごめんなさい。

世界は、これで終わりです。
さようなら。

悲哀も、これで終わりです。
おめでとう。

ぼくは少し、休みます。
何だか凄く疲れてしまって。
それじゃあバイバイ。

おやすみなさい。
ラベル:夏の雨 小説
posted by いずみ at 10:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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