2012年08月02日

【超短編小説】影法師

君の影法師に、僕の影法師を重ねて。
そっと、手を繋ぐ真似をする。
痛い夏の日差しに――在りし日の君を思い出しながら。

ある日、この街に爆弾が落ちた。

一瞬の光に、目に映る全てが吹き飛んだ。
跡形もなく――否、あまりの眩しさに、みんなの影法師だけを残して。
街は。
僕の住む街は。
その姿を大きく変えた。

世界はここを死の街と呼んだ。
瓦礫と灰塵だらけの土地を、街と呼んだ。
あちこちに残る人々の影法師に、不思議なコミュニティを見出して。

運よく生き延びた僕は。
何もかもを失って。
それでも、何故か、生きていた。
たったひとりで。

意味もなく。意義もなく。志もなく。
目的もなく。執着もなく。憎悪もなく。

ただ生きていた。
――君のいない世界で。

助けは来ない。
爆弾が含む毒に汚染されたこの街は、あらゆる生命を拒んでいた。
爆心地にいた、それでいて運よく生き延びた僕らを除いて。
故に死の街。
逆に、生き延びた住人が外の世界へ出ることも禁じられた。
毒を拡散させてはならない、という理由から。
もっとも、僕はここから逃げ出すつもりなどなかったのだけど。

この街には、君との思い出に溢れている。
瓦礫と化したとはいえ、あの頃の面影がまるでなくなったわけでもない。
僕は毎日、それらの思い出を集めて回る。
そして日が沈む前にここに来て。
君の影法師の隣で、一日を終える。
多分、死ぬまで。

影法師を重ねて、そっと、手を繋ぐ真似をする。
今日も一日が終わるよ。
おやすみなさい。
また明日。
ラベル:小説
posted by いずみ at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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