2012年04月30日

【超短編小説】僕と彼女とハクスラ【結城と孝明】

「ハックアンドスラッシュ、というらしいんだよ」
「何の話だ」

唐突過ぎる、というのは結城に限っては今更な話。
だが今回は、単語の意味すら分からない。
切り刻むHackアンド叩き斬るSlash
「・・・は?」
分からん。
「そういう概念があるのさ。以前、作業ゲーは楽しいという話をしたな?」
したかもしれない。
覚えてない。
僕が黙っていると、コイツは基本的に肯定と受け取る。
理不尽なような、手間が省けて楽なような。
「その作業ゲーを突き詰めていくと、この概念にぶつかった」
結城は、実に嬉しそうに語る。

「世の中、どの世界にも先人はいるものだ。
 作業ゲーを極めた先人は、ひとつの概念に辿り着いた。それがハックアンドスラッシュ」
「だから、それは何だ。どんなものだ?」
「ただただ、敵を倒し続けることを楽しむプレイスタイルさ。
 ――そう、プレイスタイルであり、主義、概念だ。
 間違っても、ゲームジャンルではない。今日はその話をしよう」
「・・・どうぞ」

語りモードに入った結城を止めるのは無謀である。
僕は諦めて、読みかけの小説に栞を挟み込む。

「作業ゲーを突き詰めるうちに、俺はこの単語を知った。
 そして今度は逆にその単語について広く調べ、驚いた。
 ハックアンドスラッシュ――通称ハクスラは、今では『ジャンル』として確立している。
 主に数多くの敵を倒し続けるARPGのこと、ということらしい。
 ところがだ。これは、俺の求める完璧な解ではないんだ。
 俺はそこから更に遡った。
 この言葉の発祥は、TRPGだ。テーブルトーク・ロールプレイングゲーム。
 その中で、シナリオよりも戦闘に楽しみを見出すスタイルこそハクスラの始まりだ。
 現代、RPGと言えばコンピュータゲームのRPGを指すようになってから――
 ハクスラは今のようにゲームジャンルのひとつとして収まる。
 俺には、ここが納得行かない。
 元々は『敵と戦うこと』を主眼にしたスタイルを指した。
 ならば、ARPGに限らずRPGでも、いっそアドベンチャーでもいいはずだ。
 敵と戦う、その作業を楽しむ、それこそがハクスラの真髄なのだから」

「つまりお前はあれか。今の世で広く語られるハクスラというジャンルに不満だと?」
「概ねその通りだ」
「・・・5秒もかからず説明できるじゃねえか!」
何を長々と語る必要があるのか。
コイツの講釈好きには、本当に呆れる。
「まあまあ」
僕を落ち着かせるように結城が言う。
そして再び講釈を垂れるのだった。

「更に言うなら、俺はこのハクスラを厳密に定義し直したい。
 1、ゲームの主な目的を戦闘とすること。具体的にはプレイ時間の8割が戦闘であること。
 2、戦闘の積み重ねを表現すること。お金や経験値等でキャラ育成することだな。
 3、2にランダム要素を加えること。レアドロップアイテムや、ランダムダンジョンだ。
 以上3点、これを上手く繋げることで中毒症状にも似た感覚を味わえる」

明確に言うじゃないか。
それが正しいのかどうかは僕には分からないが。
「・・・で、それをどうやって実証して広めるつもりだ?」
「・・・こうやって、孝明に話すことで」
「お前の世間は僕だけかよ! 狭すぎるだろ!」
「とにかく、俺はもっとハクスラを広めたいんだよ。具体的には孝明に」
「・・・はいはい」
僕は溜息を吐きながら、再び小説に視線を落とした。
結城がまだ何か言っている。

今日はもういいだろ。
一日分のノルマはこなしたと思うんだけどな・・・?


ラベル:結城と孝明 小説
posted by いずみ at 14:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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