2012年04月23日

【超短編小説】死に臨む

病に冒され、3年が経った。

主観的にはあまりに短く、客観的にはあまりに長い年月だった。
様々なことが起こり、そして終わった。

最初の1年は怒り、争った。
病の責任を社会に追求した。
そこで得られたのは、正義という称号と、少しのお金だけだった。

次の1年は、絶望し悲嘆に暮れた。
何をどうしても、元の自分に戻ることができない悲しみ。嘆き。
それらは病の糧となり、更に僕を苦しめた。

最後の1年は、何もなかった。
怒りも悲しみも通り過ぎて。
ただ無常に流れる時に身を任せた。

そして今。
細胞がひとつひとつ腐っていく様子が分かる。
脳が痺れ、思考に霞がかかっていく。
体中の感覚が、鈍化していく。劣化していく。
全ての活動が少しずつ鈍く小さくなり、やがては零になるのだろう。

痛みはある。
それは当然のように、隣人のように、傍に在る。
あまりに自然であり、自ら意識してはじめて、ああ痛いのだなと知覚する。
そんな存在だ。
苦しみのたうち回ったことが、最早懐かしく思う。

視界は常にはっきりせず、耳鳴りは絶えない。
それらは目眩となって僕を襲い、立ち上がることさえできなくさせた。
無理に動けば、すぐに息が切れ、胸が詰まった。
呼吸の仕方が分からないような、もどかしい感覚。
僕にはもう、足掻くことさえ許されない。

次、目を閉じた時。
僕はもう、二度と目覚めることはないのだろう。

それでいい。
それがいい。

素晴らしきこの世界に、お別れを。
あれほど憎み、嫌った世界も、離れるとなると少し寂しい。
僕は、あなたが残した病魔と共に逝く。
どうかせめて、これ以上の被害が出ないよう。
祈りながら――
願いながら――
僕はゆっくり、この目を閉じる。

さようなら。


ラベル:小説
posted by いずみ at 16:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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