繰り返し繰り返し、何度も見てきた。
忘れることのない、夢。
そして今、目の前に、その夢で見た通りの女性がいる。
名前も知らない。
だけどよく見知った、女性。
当然向こうは、僕のことなど知らないだろう。
いきなり目の前に現れても、不審がられるだけだ。
だから僕は、こっそり後を付けることにした。
月の明るい夜。
閑静な住宅街の路地裏。
街灯もまばらな、少し寂しげな道を歩く。
コツコツと彼女のヒールの音だけが響いた。
ああ、彼女はこんな音を立てて歩くのか。
僕は妙なところに感じ入ってしまう。
それはまるで夢の続きのような。
とろける響だった。
もっと――
もっと、彼女を知りたい。
名前は何というのだろう。
どこに住んでいるのだろう。
趣味は? 仕事は? 休日は何をして過ごすのだろう?
知りたいことが次々と溢れ出して止まらない。
しかし、一方でどこか諦観に似た気持ちもある。
所詮夢は夢。
現実とは違うのだ。
夢の続きを、少し体験できただけでもいいじゃないか――。
そんなことを考えていると、ふと彼女のやや後方に男の影が。
僕は様子を窺う。
それは明らかに怪しげな、コートを羽織って帽子を被った男だった。
両手をポケットに突っ込んだまま、やや早足で歩く。
この速度では、すぐに彼女にぶつかるだろう。
そこで、男は右手をポケットから出した。
ナイフ。
薄暗い、微かな明かりに反射する光で、僕はその存在に気付いた。
男は、そのナイフを握りしめ、今にも彼女に襲い掛かろうとする――。
違う。
こんな結末は、僕の望む――僕の夢じゃない。
思うより先に、体が動いた。
必死で走り、男に追いつく。
そしてそのまま、男の背後から強く体当たりをした。
吹き飛ぶ拍子に、男の右手からナイフがこぼれ落ちる。
カラン、と金属質な音が響いた。
何が起こったか一瞬分からないような顔をする男。
しかし、すぐに状況を察したのか、慌ててその場から逃げていった。
残されたのは、僕と、驚いた顔の彼女だけ。
よかった、彼女は無事だったのだ。
「怪我はありませんか?」
僕の問いかけに、彼女はようやく事態を理解する。
「は――はい。危ないところを、ありがとうございました」
そう言って、彼女は優しく微笑んだ。
ああ、そうだ。
この美しい笑顔だ。
これで――
僕は満足して、素早く彼女の白く細い首に手を伸ばす。
がっしりと強くその首を掴み、締め付ける。
――これで、夢の通りだ。
僕の両手で力尽きる彼女。
その怯えた末期の表情も、全て――僕の夢の通り。
ラベル:小説